大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)6549号 判決

原告(反訴被告) 株式会社 ユニテック

右代表者代表取締役 桒原博

右訴訟代理人弁護士 松井一彦

同 嶋田貴文

同 中川徹也

被告(反訴原告) 株式会社 日本情報開発

右代表者代表取締役 北川宗助

右訴訟代理人弁護士 塚田喜一

同 杉野修平

右訴訟復代理人弁護士 有吉眞

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、一六〇万円及びこれに対する昭和六一年六月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対して、七〇七万八二二五円及びこれに対する昭和六一年一二月二五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを四分し、その三を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

六  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、八二〇万円及びこれに対する昭和六一年六月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

3  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、一一四七万九五六七円及びこれに対する昭和六一年一二月二五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告(反訴原告)の請求の棄却する。

2  訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  (当事者)

原告(反訴被告、以下「原告」という。)はコンピューターのプログラムの開発、改造を目的とする株式会社であり、被告(反訴原告、以下「被告」という。)も右同様の目的を有する株式会社である。

2  (本件一ないし五契約の締結等)

原告は被告との間で、左記(一)ないし(五)記載①の契約日に、②の内容の各請負契約(以下「本件一ないし五契約」という。)を締結し、左記(二)ないし(五)記載の契約については、⑤の各完成・引渡欄記載のとおり、仕事を完成し引渡を了した。

(一)①締結日 昭和六〇年一一月一八日

②請負内容 集荷システムプログラムの改造

③代金額 六〇〇万円

④代金支払日 完成品の目的物引渡月の翌々月の五日支払

(二)①締結日 昭和六一年一月一八日

②請負内容 道路テレメーターソフトウェア作成

③代金 一八〇万円

④代金支払日 (一)④同

⑤完成・引渡 昭和六一年三月三〇日頃

(三)①締結日 昭和六一年二月ころ

②請負内容 ISICプログラム修正

③代金 六〇万円

④ (一)④同

⑤完成・引渡 昭和六一年二月二八日頃

(四)①締結日 昭和六一年二月二〇日

②請負内容 BOSSシステムソフトウェア修正

③代金 六〇万円

④代金支払日 (一)④同

⑤完成・引渡 昭和六一年三月二四日頃

(五)①締結日 昭和六一年三月ころ

②請負内容 BOSSシステムソフトウェア修正

③代金 二〇万円

④代金支払日 (一)④同

⑤完成・引渡 昭和六一年三月二四日頃

3  (本件二契約に基づく代金の一部弁済後の残代金額)

原告は昭和六一年五月ころ、被告から、本件二契約の代金の一部として一〇〇万円支払を受けたので、本件二契約に基づく残代金は八〇万円となった。

4  (本件一契約につき被告の責めに帰すべき理由による履行不能)

(一) 原告は、昭和六〇年一一月下旬ころ、被告から改造の対象となる既成集荷指令プログラム(以下「既成集荷指令プログラム」という。)の引渡を受け、その改造作業を開始したが、被告は原告の要求にもかかわらず既成集荷指令プログラムの解説書を引渡さずかつ既成集荷指令プログラム自体も不完全で改造できない状態のものであることが判明した。

(二) そこで、原告は昭和六一年二月二二日、被告に対し、既成集荷指令プログラムを解析・改造することは不可能であり、新規に作り直す以外は対応できず、費用、納期を別途設定してもらいたい旨を申し入れた。

(三) ところが、被告は、原告に無断で自ら集荷指令プログラムを完成してしまい、原告が本件一契約を履行することは社会通念上不能となった。

(四) 右(一)ないし(三)の事実によれば、被告はその責めに帰すべき理由により、本件一契約の履行を不能にしたものであるから、原告に対し、民法五三六条二項の規定に基づき請負代金六〇〇万円の支払義務がある。

5  よって、原告は被告に対して、本件二ないし五契約に基づく未払請負代金合計二二〇万円及び民法五三六条二項の規定に基づく本件一契約の請負代金六〇〇万円並びに右各金員に対する弁済期の後の日である昭和六一年六月一九日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  本訴請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、本件三契約の締結、完成、引渡の事実は否認し、その余の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

4(一)  同4(一)の事実中、原告が被告から、昭和六〇年一一月下旬ころ、改造の対象となる既成集荷指令プログラムの引渡を受け、改造を開始した事実は認め、その余の事実は否認する。原告主張の既成集荷指令プログラムの解説書は存在せず、被告に右解説書の引渡義務はない。

(二) 同4(二)の事実は認める。

(三) 同4(三)の事実中、被告が自ら集荷指令プログラムを完成した事実は認め、その余の事実は否認する。

(四) 同4(四)は争う。

三  反訴請求原因

(本件一契約に関する反訴請求原因)

1 本訴請求訴原因2(一)に同じ。

2 本件一契約において、被告が原告に請負わせた改造作業の詳細の内容は、以下のとおりである。

(一) 指令局(職場に設置されたコンピュータ)から移動局(車両に設置された無線機)への各種業務無線用周波数を利用したデータ伝送で、従来の通話モードで一つの移動局に対して行っていたものを複数の移動局に対し可能にする。

(二) ステーションコントローラーとの伝送方式も複数の移動局に対応できるものとする。

(三) 移動局のハードウエア(プリンター、操作表示盤)が新しくなったのに対応する。

3 (本件一契約の納期)

本件一契約の作業納期は左記のとおりである。

(一) 既成ソフト解析、基本設計 昭和六〇年一二月一五日

(二) 詳細設計 昭和六一年一月一〇日

(三) プログラミング 昭和六一年一月二五日

(四) 単体テスト 昭和六一年二月五日

(五) 結合テスト 昭和六一年二月末日

(六) 設計評価 昭和六一年三月五日

(七) 総合テスト 昭和六一年三月末日

4 (本件一契約の履行不能)

原告は昭和六一年二月二二日、被告に対し、既成集荷指令プログラムを解析・改造することは不可能であり、新規に作り直す以外に対応できず、費用、納期を別途設定してもらいたい旨を申し入れ、爾後、解析・改造作業を放棄した。

よって、原告の責めに帰すべき理由により、本件一契約における原告の債務の履行は不能となった。このため、被告は急遽、後記5の費用を支出して、自ら集荷指令プログラムを完成することを余儀なくされた。

5 (被告に生じた損害)

(一) 被告は、本件一契約の集荷指令プログラム改造作業を自ら行い、完成させたことによって、左記費用を支出した。

(1) 作業人件費 一一六〇万一三四二円(一時間当たり四〇一五円、二八八九・五時間)

(2) デバッガー(器材)借用料 六三万三〇〇〇円

(3) 工場における検査・修正(以下「デバッグ」という。)のための宿泊費 四二万二八七〇円

(4) 納品先でのデバッグ出張経費 五九万〇八三〇円

(二) 右(一)の合計額一三二四万八〇四二円から、被告が支払を免れた本件一契約代金相当額六〇〇万円を控除した残金七二四万八〇四二円が、本件一契約の履行不能によって被告に生じた損害である。

(本件六契約に関する反訴請求原因)

6 (本件六契約の締結)

被告は原告との間で、左記のとおり、請負契約(以下「本件六契約」という。)を締結した。

①締結日 昭和六〇年一二月一〇日

②請負内容 ISICプログラム作成

③代金 二〇〇万円

④納期 単体テスト完了 昭和六〇年一二月末日

結合テスト完了 昭和六一年一月末日

⑤特約 検収後発見されたプログラムの誤りについては、請負人原告が自己の負担で修正する(以下「本件特約」という。)。

7 被告は、昭和六一年三月二四日から同年四月二二日までの間、原告から納入を受けたISICプログラムをテストしたところ、右プログラムには構造上の欠陥が多数あり、時折データ送受信ができなくなる、一度回線不安定により、伝送異常が発生すると、以降回線が安定してもデータ受信をしなくなる、送信データ量が多いと送信できなくなる等の不都合が判明した。

8 (本件特約に基づく原告の損害賠償責任)

(一) 被告は、原告の納入したISICプログラムは修正不可能であり、原告には新規に作り直す能力はないものと判断し、昭和六一年五月一日から同年七月七日までの間、以下の費用を支出して、新規にISICプログラムを作成、完成した。

① テスト作業人件費 一五〇万五六二五円(一時間当たり四〇一五円、三七五時間)

(2) テスト作業出張経費 三五万八七〇〇円

(3) 新規作成作業人件費 二二六万四四六〇円(一時間当たり四〇一五円、五六四時間)

(4) 新規作成作業出張経費 一〇万二七四〇円

(二) 原告は被告に対し、本件六契約における本件特約に基づき右(一)の合計額四二三万一五二五円を賠償すべきである。

9 よって、被告は原告に対して、前記5(二)(本件一契約)記載の損害金七二四万八〇四二円及び前記8(二)(本件特約)記載の損害金四二三万一五二五円並びにこれらに対する催告の日の翌日である昭和六一年一二月二五日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  反訴請求原因に対する認否及び原告の主張

(認否)

1 反訴請求原因1、2の事実はいずれも認める。

2 同3記載の各作業納期が作業工程の予定として示されたものであることは認める。

3 同4の事実中、原告が被告に対し、昭和六一年二月二二日、本件集荷指令プログラムを解析・改造することは不可能であり、新規に作り直す以外は対応できず、費用、納期を別途設定してもらいたい旨を申し入れ、爾後、解析・改造作業を放棄した事実は認め、その余の事実は否認する。

4 同5(一)の事実は知らず、同(二)の事実は否認する。

5 同6の事実は認める。

6 同7の事実は否認する。

被告は、昭和六一年一月末、原告作成のISICプログラムを検収し、請負代金を同年二月六日、同年四月五日に各一〇〇万円ずつ計二〇〇万円支払っているのであり、本件六契約に基づく原告の請負仕事は完成していたものである。

7 同8(一)の事実は知らず、同(二)の事実は否認する。

(主張)

被告は原告に対し、本件一契約の当初から、既成集荷指令プログラムの解説書を引渡さず、かつ、既成集荷指令プログラム自体も不完全なものであった。

そこで原告が新規作成作業をしたい旨被告に申し入れたのに、これに応ぜず、結局被告において右作業を履行したものであって、帰責事由は被告にあっても原告にはないものである。

第三証拠《省略》

理由

第一本件二、四、五契約に基づく請負代金本訴請求について

一  (争いのない事実等)

原告、被告がいずれもコンピュータープログラムの開発、改造を目的とする株式会社であること、原告・被告間で、代金は目的物引渡月の翌々月の五日支払の約定で、本件二、四、五契約が各締結されたこと、原告が本件二契約については昭和六一年三月三〇日ころ、本件四、五契約については同月二四日ころ、各請負仕事を完成し、被告に引渡したこと、被告が原告に対して、昭和六一年五月ころ、本件二契約の請負代金の一部として一〇〇万円支払ったことはいずれも当事者間に争いがなく、本訴状が昭和六一年六月一八日被告に送達されたことは、当裁判所に顕著である。

二  右一の事実によれば、被告は原告に対し、本件二契約に基づく請負代金残金八〇万円、本件四契約に基づく請負代金六〇万円、本件五契約に基づく請負代金二〇万円(合計金一六〇万円)及び右各金員に対する弁済期(昭和六一年五月五日)の後である昭和六一年六月一九日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第二本件一契約に関する本訴・反訴請求について

一  (争いのない事実等)

原告・被告間で、本件一契約が締結されたこと、原告が被告に対し、昭和六一年二月二二日、既成集荷指令プログラムを解析・改造することは不可能であり、新規に作り直す以外は対応できず、費用、納期を別途設定してもらいたい旨を申し入れ、爾後、解析・改造作業の履行を放棄したことはいずれも当事者間に争いがなく、反訴状が昭和六一年一二月二四日原告に送達されたことは当裁判所に顕著である。

二  原告は、本件一契約に基づく原告の請負仕事完成債務が被告の責めに帰すべき理由により履行不能となった旨主張し、被告はこれを否認し、かえって右原告の債務は原告の責めに帰すべき理由により履行不能となった旨主張するので、まずこの点につき以下において検討する。

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告代表者桒原博(以下「桒原」という。)は、昭和二八年三月東京外国語大学英米学科卒業後、貿易関係の仕事に従事し、昭和五四年ころからコンピュータプログラムを独学し、昭和五七年原告会社を設立した。原告会社は、当初は、輸入業務を営んでいたが、昭和五七年七月ころから、制御系のコンピュータ・プログラム作成請負を中心に営むようになった。原告においては、プログラム作成のできる正社員は七、八名にすぎず、専ら契約社員によって、プログラム作成を行っていた。

一方、被告は、昭和四二年五月、株式会社京葉計算センターとして設立され、昭和四七年一二月、株式会社コンピュータ・マーケティングと合併し、同時に現在の商号に社名変更したもので、設立当初から、コンピュータのソフトウェアの開発、改造を目的とする株式会社であり、昭和六〇年九月ころから、原告にプログラム作成の下請を依頼するようになった。

2  被告は発注者訴外日立電子株式会社(以下「日立電子」という。)から、既成の無線(MCA―OA)通信装置(以下「MCA―OA」という。)を利用した集荷指令システムのプログラムの解析、改造作業の完成・引渡を、代金七二〇万円で請負った。

右集荷指令システムは、職場(指令局、以下同様)に設置されたコンピュータと移動車輛(移動局、以下同様)に積載された無線(MCA無線通信装置)を接続し、従来音声により行われていた集荷指令を、移動車輛に積載されたプリンターによりリプリントする方法で、適確かつ迅速に指令を行うことを可能にし、もって小口集荷業務に係わる受付処理、集荷指示機能の自動化とその効率化を図ることを目的とする伝送処理システムであり、日立電子により開発されたものであるところ、右システムのうち、日立電子が被告に請負わせた解析・改造作業の対象部分は、①指令局から移動局のデータ伝送で、従来一回の音声による通話モードで一つの移動局に対して行っていたものを複数の移動局に対して同時伝送することを可能にすること、②指令局に設置されたコンピュータ装置中のステーションコントローラーと移動局との伝送方式も複数の移動局に対応できるものとすること、③移動局に積載されたハードウエア(車輛プリンター、操作表示盤)が新しくなったのに対応させることを内容とし、右目的のために既成集荷指令プログラムの解析・改造作業をおこなわしめるものであった。

3  被告は、昭和六〇年一〇月末ころ、日立電子から請負った集荷指令システム中の、前記2記載のプログラムの解析、改造を原告に下請させることした(以下「本件解析・改造作業」という。)。

日立電子は、右請負契約に先立ち、訴外永見純(以下「永見」という。)に対し、元請被告及び下請原告に協力して本件解析・改造作業に指導するよう依頼していた。右永見は、都立高校卒業後、昭和四九年から二年間、専門学校でコンピュータプログラムの作成を学び、以後一貫して、コンピュータプログラム作成に従事しているコンピュータ専門家であり、それ以前日立電子のMCA―OAのプログラム作成に関与した者である。

4  昭和六〇年一一月一二日、第一回目の本件解析・改造作業の打ち合わせが行われ、原告から桒原、担当社員甲州利昭(以下「甲州」という。)、被告からシステム部第一課課長泉博(以下「泉課長」という。)、日立電子からシステム設計部システム開発課技師高橋泰行(以下「高橋」という。)をはじめ、同社社員平山及び村田、並びに前記永見が出席した。

右出席者のうち永見は、前記のような経歴をもつコンピュータ専門家であり、高橋は、電気通信大学大学院修士課程終了後、昭和五六年、日立電子に入社し、主として通信及び情報処理、コンピュータ制御に従事し、昭和五八年秋ころから、既成集荷指令プログラムの作成に着手し、永見らの協力を得て、昭和六〇年四月ころ右プログラムを完成した者である。

右打ち合わせにおいて、既成集荷指令プログラム作成者である高橋が右集荷指令プログラムの内容及びその改造作業内容の概略説明を行い、既成集荷指令プログラムには後記(一)ないし(五)記載の仕様書以外には詳細仕様書(いわゆる詳細設計書、以下「詳細設計書」という。)に該当するものはない旨、出席者全員に告げた。そして原告、被告間で、納期を昭和六一年三月末日とすること及び今後の概ねの作業工程等についての話し合いが行われたうえ、その際被告から原告に左記の資料が交付された。

(一) 集荷指令システム基本機能仕様書(改造後)

(二) 日立集荷指令システム御確認仕様書(改造後)

(三) ハードウエアインターフェース仕様書

(四) ソフトウエアインターフェース仕様書

(五) 信号処理装置機能仕様書

次いで、同月一五日、被告から原告に左記の資料が交付された。

(六) MCAデータ伝送システム仕様書及びOSD

(七) MCAデータ伝送システム操作手順書

(八) MCAデータ伝送システム無線回路制御手順

(九) 信号処理装置 通信データ構造

(一〇) 信号処理装置 標準インターフェース仕様書

(一一) MCA―OA データ通信タイムチャート及び回路図

(一二) MCA―OA基本機能仕様書(司令局及び移動局)

(一三) 指令局、移動局、ソースプログラムリスト

(一四) 指令局、移動局、ソースプログラム(フロッピーディスク五枚)

更に同月一九日、被告から原告に左記の資料が交付された。

(一五) MCA―OA改修部詳細フローチャート

5  昭和六〇年一二月二日、甲州、泉課長、高橋、永見らが出席して、第二回本件解析・改造作業の打ち合わせが行われ、永見が既成集荷指令プログラムの仕様の概略を説明した。その際、原告から既成集荷指令プログラムの詳細設計書が欲しい旨の要望が出された。

6  原告は、甲州、入野清、小林秀樹を担当者として、昭和六〇年一一月初旬ころから本件解析・改造作業に着手していた。右甲州及び入野は原告の契約社員であり、小林は原告の正社員であった。

原告と被告は、その後、昭和六〇年一二月初旬間での間に数回に亙り、代金の見積並びに作業工程等について交渉を重ねた。

7  原告と被告は、前記6の工程を踏んだうえ、昭和六〇年一二月一〇日、左記の内容の請負契約(本件一契約)を締結した(本件一契約締結の事実は当事者間に争いがない。)。

(一)請負代金 六〇〇万円

(二)作業納期

(1) 既設ソフト解析、基本設計 昭和六〇年一二月一五日

(2) 詳細設計 昭和六一年一月一〇日

(3) プログラミング 昭和六一年一月二五日

(4) 単体テスト 昭和六一年二月五日

(5) 結合テスト 昭和六一年二月末日

(6) 設計評価 昭和六一年三月五日

(7) 総合テスト 昭和六一年三月末日

8  右作業着工後の昭和六〇年一二月一九日と二一日に原告からの要請により、甲州、泉課長、永見らが出席して、本件解析・改造作業の打ち合わせが行われ、永見が既成集荷指令プログラムの内容を重ねて甲州に説明した。

9  ところが、甲州は、本件解析・改造作業に着手し、前記重ねての説明を受けたにもかかわらず、一向に右作業を進行させることができず、昭和六一年一月初旬には、病気を理由に右作業を中止し、爾後、右作業に従事することが不可能な状態になった。そこで原告は、同月中旬ころから、原告社員河内克又(以下「河内」という。)を本件解析・改造作業の担当者に命じ、同人をして右作業を進めさせた。

河内は、高校卒業後、英語専門学校に進み、昭和五四年から、株式会社ビットに在籍し、コンピュータプログラム作成を学び、昭和五九年九月、原告に入社し、制御関係のコンピュータプログラム作成に従事していた者である。

原告と被告との間では、その後も、数回に亙り、本件解析・改造作業に関する打ち合わせが続けられ、同月一七日、被告から原告に更に左記の資料が交付された。

(一六) 無線通信タイムチャート

(一七) 集荷メッセージ一覧

(一八) 集荷指令システムデータ伝送機能データ構成

(一九) 集荷メッセージ、ポーリング状態変更

(二〇) 無線回路上のデータ構造

(二一) 信号処理装置ハードウエア改造部の回路図

10  原告は前記着手済みの既成集荷指令プログラムの解析作業が当初から予定通りには進捗せず、大幅に遅れる可能性があったので、昭和六一年一月末ころ、被告に対し、前記7(二)(4)単体テスト作業を二月一〇日まで延期してもらいたい旨申し入れた。

原告は、同年二月一〇日ころ、既成集荷指令プログラムのフローチャートの一部を作成したが、作業の進捗程度は未だ単体テストが実施できる状態ではなかったので、更に、同月一二日、被告に対し単体テストを四週間延期してほしい旨申し入れた。

11  原告の要望により、昭和六一年二月一八日、泉課長、河内、永見らが出席して、本件解析・改造作業の打ち合わせが行われ、永見が約二時間にわたって、改めて従前数回説明済みの既成集荷指令プログラムの内容説明を更に行った。その際、河内から本件解析作業の問題点の指摘がなされたが、前記指摘点は乙第一二号証のメモに記載のとおりのもので極めて初歩的な内容であったため、永見は、原告の本件解析作業は未だ初期の段階に留どまって、殆ど進行していないものと推察した。

12  原告は昭和六一年二月二二日、被告に対し、既成集荷指令プログラムを解析・改造することは不可能であり、新規に作り直す以外は対応できず、費用、納期を別途設定してもらいたい、このまま本件解析・改造作業を継続すると原告の経営自体が危ぶまれる旨告げた(右事実は当事者間に争いがない。)。このようにして原告は、同年三月九日ころ、被告に対し原告が預かり中の解析、改造作業途中のプログラム等の資料一式を返却、引渡した。

右引渡時のプログラムの完成度合は、ゼロの状態であり、かえって原告の着手した右解析作業により、既成集荷指令プログラムに改造を加えることがほとんど不可能な状態を呈していた。

13  困惑した被告は急遽、発注者日立電子にその実情を告げ、同社との間で、昭和六一年三月下旬ころから同年四月にかけて協議を重ねた結果、日立電子の要望で被告自身で昭和六一年六月末を最終納期として、既成集荷指令プログラムの解析、改造作業をやり直すこととし、被告は右納期までに、右作業を完成し、日立電子に引き渡した。そして、既成集荷指令システムは実用化されるに至った。

《証拠判断省略》

三  以上の事実関係に照らして、原告の本件解析・改造作業が完成に至らなかった原因について検討する。

原告は、コンピュータプログラムを解析、改造するためには、改造対象となるプログラム自体の外に、基本設計書、詳細設計書、マニュアルが必要不可欠であり、原告が本件解析・改造作業を完成できなかったのは、被告から詳細設計書(原告のいう詳細設計書がいかなるものを意味するのかは原告の主張によっても必ずしも明確ではない。)の引渡がなかったためと主張し、それに沿う趣旨の原告代表者の供述もある。

しかしながら、原告は、被告及び日立電子と打ち合わせを重ねたうえ、昭和六〇年一一月初旬ころから本件解析、改造作業に着手したこと、原告は、第一回の打ち合わせの際、説明者高橋から既成集荷指令プログラムには前記各仕様書以外には詳細設計書なるものはない旨告げられていること、原告は被告から二記載の(一)ないし(二一)の各資料の交付を受けていること、原告は被告との間で数回の打ち合わせを経たうえ、昭和六〇年一二月一〇日になって本件一契約を締結していること、被告が原告に本件解析・改造作業を下請に出す直前より、永見及び高橋に依頼して、原告に対して既成集荷指令プログラムの解説をさせたのであり、現に右両名は原告担当者に対し、数回に亙り右既成プログラムの解説を行ったことは前示のとおりであり、MCA―OAのプログラム作成に関与した証人永見純及び既成集荷指令プログラムの作成者である証人高橋泰行は、いずれも、既成集荷指令プログラムの解析は容易ではないが、右プログラムの詳細設計書がなくても、充分解析、改造は可能であると証言していることを併せ勘案すれば、被告から原告に対して、本件解析・改造作業において、必要不可欠な資料が提示されていなかったものとは解することができない。そして、前示、原告の会社の規模、本件解析・改造作業に従事した原告担当者のコンピュータプログラム作成の経験習熟の程度、原告は永見及び高橋に対し、既成集荷指令プログラムに関して質問すれば、いつでも回答を得られる状態にあったこと、原告の本件解析作業は、昭和六一年二月一八日に至っても未だ初期の段階に留どまっていたこと、被告が同年三月九日ころ、原告から引渡を受けた解析作業途中のプログラム等は、完成度合ゼロであったことの各事実に照らすと、原告の本件解析・改造作業が完成に至らなかったのは、原告担当者のプログラム解析・改造能力が原因であると推認でき、本件全証拠によっても右推認を動かすに足る証拠はない。

四  そうすると、原告が昭和六一年二月二二日、被告に対し既成集荷システムプログラムの関係資料を返還し、本件解析・改造作業の続行を中止宣言したことにより、本件一契約に基づく原告の被告に対する請負仕事完成債務は原告の責めに帰すべき理由により履行不能となった(被告の本訴における主張)というべきであり、かつ、右履行不能につき原告に責めに帰すべき理由がない(原告の反訴における主張)とはいえないのであるから、結局原告は本件一契約の履行不能によって被告に生じた損害を賠償する義務があるというべきである。

五  (被告の損害)

1  《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(一) 被告は、原告による本件解析・改造作業の放棄後、日立電子と協議した結果、被告自身で、既成集荷指令プログラムの解析・改造(以下「被告解析・改造作業」という。)を行うこととし、高山正良(以下「高山」という。)、野辺地綾男(以下「野辺地」という。)、牟田口和由(以下「牟田口」という。)、北條敏浩(以下「北條」という。)、木住野当人、泉課長の五名をして、昭和六一年三月から同年七月にかけて、合計二八八九・五時間解析・改造作業に従事させた。

被告は、右被告解析・改造作業にあたって、原告から引渡を受けた解析・改造途中のプログラムを、全く利用しなかった。

被告においては、作業者一人一時間当たりの基準人件費は四〇一五円であり、被告解析・改造作業に費やした人件費は合計一一六〇万一三四二円(円未満切り捨て)となる。

(二) 被告は、被告解析・改造作業に必要な器材を、オリエント測器レンタル株式会社から借受けて使用し、同会社にリース料合計六三万三〇〇〇円を支払った。

(三) 被告は、日立電子の小金井工場におけるプログラムの検査(いわゆる工場デバッグ時)のため、左記の金員(合計四二万二八七〇円)を支出した。

泉課長の宿泊費一三万二八〇〇円

北條の出張経費合計二九万〇〇七〇円

(四) 被告は、集荷指令プログラムの納品先であるヤマト運輸株式会社名古屋支店におけるプログラムの検査(いわゆる現地デバッグ)のため、左記の金員(合計五九万〇八三〇円)を支出した。

(1) 牟田口の昭和六一年六月一日から同月五日までの出張経費五万七〇一五円

(2) 野辺地の昭和六一年六月一日から同月一四日までの出張経費一三万九四九五円、同月一九日から七月二日までの出張経費一四万〇四二〇円

(3) 高山の昭和六一年六月一日から同月一四日までの出張経費一四万八二六〇円、同月二三日から七月二日までの出張経費一〇万五六四〇円

2  右1認定の被告の支出額のうち、(二)ないし(四)の金員は、前掲各証拠によれば、原告の本件解析・改造作業の放棄により、作業日数に余裕がなくなったため支出を余儀なくされたものと推認でき(右推認を動かすに足る証拠はない。)、本件一契約の履行不能と相当因果関係のある損害と認められる。

しかし、右1(一)の人件費相当額の金員については、前示のとおり、被告は日立電子から、集荷指令プログラムの解析・改造を作業時間合計一八〇〇時間で見積もり、代金七二〇万円で受注していること、《証拠省略》によっても、被告解析・改造作業において、必ずしも適正な人員配置等がなされていなかったことが窺えることに照らすと、右人件費相当額のうち被告の日立電子からの受注額七二〇万円を超える部分については、本件一契約の履行不能と相当因果関係のある損害とは認めることはできない。

3  そうすると、原告の本件一契約に基づく債務の履行不能により被告に生じた損害額は、前記1において認めた損害額合計八八四万六七〇〇円から被告が支払いを免れた本件一契約の請負代金相当額六〇〇万を控除した残金二八四万六七〇〇円ということになる。

六  (結論)

以上の次第で、原告は被告に対し、右五記載の損害二八四万六七〇〇円及びこれに対する催告の日の翌日である昭和六一年一二月二五日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をなす義務がある。

第三本件六契約に関する反訴請求及び本件三契約に関する本訴請求について

一  (争いのない事実等)

原告・被告間で、本件六契約が締結されたこと、右契約締結に際し、検収後発見されたプログラムの誤りについては、請負人原告が自己の負担で修正する旨合意されていたことはいずれも当事者間に争いがなく、反訴状が昭和六一年一二月二四日、原告に送達されたことは当裁判所に顕著である。

二  被告は、原告から納入を受けたISICプログラムには構造上の欠陥が多数あり、被告が修正して完成するのに四二三万一五二五円を支出したと主張して、本件六契約における本件特約に基づく損害賠償として右金員及び遅延損害金の支払を請求する(反訴請求)ところ、原告は右被告の主張を否認し、本件六契約に基づき原告が下請した請負仕事は原告の履行により完成・引渡済みであり、右六契約とは別個に、被告との間で、ISICプログラム修正作業を内容とする本件三契約を締結したものであると主張し、右三契約に基づく請負代金六〇〇万円及び遅延損害金の各支払を請求(本訴請求)するので、以下この点につき検討する。

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができ、右認定を覆すに十分な証拠はない。

1  被告は昭和六〇年六月ころ、訴外アンリツ株式会社(以下「アンリツ」という。)から、道路管理情報システムのプログラム作成の発注を受けこれを請負った。

右道路管理情報システムは、事故、災害、工事及び気象の変化に対応して、道路利用者に危険防止のため適切な情報を提供することを目的とするシステムであり、道路上等に設置された観測局からのデータを情報処理装置に集め、気象情報、災害情報、事故情報等に分類したうえで、道路上に設置された道路情報表示装置に転送、表示するものである。

2  被告は、右道路管理情報システムの一部であるISICプログラム(道路管理情報システム内の、情報処理装置と道路情報表示装置の間に介在して、表示データの転送を行うもの)の作成を原告に下請させることにし、昭和六〇年一二月一〇日、原告との間で左記の内容の請負契約を締結した(本件六契約。右契約締結の事実は当事者間に争いがない。)。

(一) 納期 昭和六〇年一二月末日 単体テスト完了

昭和六一年一月末日 結合テスト完了

(二) 請負代金 二〇〇万円

(三) 検収後発見されたプログラムの誤りについては、請負人原告が自己の負担で修正する。

3  原告は、昭和六〇年一二月末日までに、ISICプログラムの単体テストを完了することはできなかったが、被告は、前同日ころ、原告の企業規模に鑑み、半分の作業を検収したこととして、昭和六一年二月六日、右代金半額相当の一〇〇万円を原告に支払った。

4  原告は、昭和六一年二月末日までに、ISICプログラムの結合テスト作業を完了することはできなかったが、右遅延の原因としては、原告の作業遅延と共にアンリツ側のハードウエアの準備遅延も加わった。そこで被告は、二月末日ころ、原告から原告作成のISICプログラム(以下「原告作成ISICプログラム」という。)の引渡を受け、残作業の検収をしたこととし、同年四月五日、残代金相当の一〇〇万円を支払った。その際、原告と被告は、昭和六一年二月末日以降に実施されるべき結合テスト作業において、右原告作成ISICプログラムに不具合が生じた場合には、原告の費用負担においてその修正を行うことを確認しあった。

5  被告(担当社員佐々木勉)は、昭和六一年三月から、原告作成ISICプログラムの結合テストを実施したが、正常処理に関して、不具合が多発した。そこで被告は、原告(担当社員田村)に修正作業をさせ、同月末ころには、原告作成ISICプログラムは、正常処理に関するデータ伝送が可能な程度に修正された。

6  また、被告は昭和六一年四月ころ、原告から原告作成ISICプログラムの修正に関する追加費用として六〇万円の追加払を求められたが、右両者間で、右追加費用は、原告作成ISICプログラムの不具合修正のために原告において出捐した費用であるから原告負担とすることで合意した。

7  被告は、昭和六一年四月ころから、原告作成ISICプログラムにつき、異常処理に関する結合テストを実施したが、再び不具合が多発し、同月末ころには、原告作成ISICプログラムには、モジュール分割が不明確であること、条件判定箇所が多すぎること等のプログラム自体の構造的欠陥があり、使用可能とするためには、プログラム自体を作り直す必要があることが明らかになった。

8  被告は昭和六一年五月ころから、やむなく自らの手によりISICプログラムの作り直し作業を開始し、同年七月ころ完成した。

三  右一、二の事実に照らせば、被告は、昭和六一年四月頃には、原告作成ISICプログラムにプログラム自体の構造的欠陥が判明したので、同年五月ころから新たにISICプログラムの作成作業を行ったものと認められ、原告・被告間で、本件六契約と別個に、ISICプログラム修正を内容とする契約(本件三契約)を締結したとは認められない(もっとも、原告代表者は、原告は被告との間で、別途、ISICプログラム修正を内容とする請負契約(本件三契約)を締結したものと供述し、右供述内容に沿う甲第八号証が存在するが、右供述は請負契約の中核となる点(請負額、作業内容)について曖昧であり、前掲各証拠に照らし、採用できない。また甲第八号証も原告代表者自体が作成した書面にすぎず、右認定を覆すものとはいいえない。)。

一方、原告は被告に対し、前記代金支払後に発見されたプログラムの誤りについて、請負人原告が自己の負担で修正する旨の本件六契約における本件特約に基づき、被告の被った損害を賠償する義務を負うべきである。

四  (原告の賠償額)

1  《証拠省略》によれば、以下の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(一) 被告は、原告から引渡を受けたISICプログラムが所定の機能をどの程度果たしうるかの結合テスト(以下「テスト作業」という。)を行うこととし、佐々木勉(以下「佐々木」という。)を、昭和六一年三月二三日から同年四月二六日にかけて、納入先現場である和歌山と福井の土木事務所に出張させ、合計三七五時間のテスト作業に従事させた。

被告は、右作業の出張経費として三五万八七〇〇円支出した。

被告においては、作業者一人一時間当たりの基準人件費は四〇一五円であり、テスト作業に費やした人件費は合計一五〇万五六二五円となる。

(二) 右テスト作業の結果、前示二7のとおり、原告から引渡を受けたISICプログラムを使用可能とするためには、プログラム自体を作り直す必要があることが明らかになったので、被告は、新規にISICプログラムを作成(以下「作成作業」という。)することとし、町田哲夫(以下「町田」という。)を、昭和六一年五月一日から七月一一日まで、合計五六四時間右作成作業に従事させた。

被告においては、作業者一人一時間当たりの基準人件費は四〇一五円であり、作成作業に費やした人件費は合計二二六万四四六〇円となる。

また被告は、昭和六一年六月二九日から同年七月五日まで、ISICプログラムの納入先におけるプログラムの検査を行い、町田の出張経費として一〇万二七四〇円支出した。

2  右1認定の被告の支出額のうち、(二)の金員は、前掲各証拠によれば、原告作成ISICプログラムにプログラム自体の構造的欠陥が判明したため、被告において新規にISICプログラムを作成せざるを得なくなり、そのため支出を余儀なくされた金員であると推認でき、右推認を動かすに足る証拠はない。

次に、右1(一)のテスト作業に支出された金員について検討するに、証人高井民生の証言(第二回)によれば、テストを経ずして一旦引渡を受けたプログラムについては、その欠陥の有無を調査し、まず改造の余地はないか、相当期間検討するのが通例であること、専門の技術者によっても、コンピュータプラグラムが改造により所期の機能を果たしうるか、あるいは構造的欠陥があり新規作成をせざるをえないかの見極めをするのみで約半月は必要であると認められることに、本件におけるテスト作業の期間は昭和六一年三月二三日から同年四月二六日までの約一か月であったことを併せ勘案すれば、右金員は、検収後発見されたプログラムの誤りの修正につき通常支出が予見しうる金員であるといわざるを得ない。

それゆえ、本件六契約における本件特約に基づき、原告が負担すべき金員は、右1(一)、(二)認定の合計四二三万一五二五円ということになる。

五  (結論)

以上の次第で、原告は被告に対して右四二三万一五二五円及びこれに対する催告の日の翌日である昭和六一年一二月二五日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものと認められ、本件六契約に関する反訴請求は理由があり、本件三契約に関する本訴請求については、本件三契約の成立を肯認することができないから理由がないことに帰する。

第四結語

よって、原告の本訴請求は、合計金一六〇万円及び右金員に対する遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は、合計金七〇七万八二二五円並びに右金員に対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 菅原崇 中村愼)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例